はんちく雑記

　「天気が悪かったから…」

　先日、僕との待ち合わせに来なかった人と予期せぬ場所で会ったとき、
言い訳として発せられたのがこの言葉だった。

　その“待ち合わせた”日の天気は悪くなかったし、
彼には、自分自身に都合の悪い話をする時、目を合わさず吐き捨てるように言う癖があるので、
真偽を確かめなくても、極めて簡単にそれが嘘だとわかった。

　待ち合わせと言っても、厳密に何時何分何処に、という物ではない。
「暇だったら来てよ」
という程度の軽いものだったので、僕はそれほど気にしていなかったのだが、
しかし相手にとっては引け目に感じていたのだろうか。

　来たくなかったら、それはそれで構わなかったのに。

　彼が来なかった事よりも、むしろ、
そんな稚拙な嘘をつかれた事に、軽い失望を感じた。
あぁ、君はまだ、他人と上手に付き合えないんだね…と。



　彼は昔から、些細な事を気にしては自分から孤立し、周りに打ち解けられない性格だった。
その為に学校を中退したので、その後を心配していたのだが、
向こうがコチラに来ない限り、追跡してはいけない立場にいるのが僕なので、
それから暫く、音信不通になった。

　しかし数年後、彼の方から近況を報告しに来てくれたのだ。
麻雀をやり始めたので、教えてほしい、とも。

　そこから付き合いが再開した。

　彼が「欲しい」というので麻雀牌セット（といっても、僕の中古品ではあるが）をプレゼントして

　「牌とマットを持ってくるから、実際に打ちながら教えてあげるよ。
　　今度の土曜の夜、暇だったらまたおいで」

　これが前述の「待ち合わせ」である。
そしてその土曜日、彼は来ず、その後も暫く姿をみせなかった。

　
　彼にとっては、呼ばれた日に行かなかった（或いは、行きたくなかった？）事を申し訳なく思っての「嘘」であろうが…
この程度の約束を反故にする事に対して負い目を感じてしまう事、
そしてそれを上手に隠す事が出来ない事は全て、彼の愚直さと言えよう。

　それは決して非難される事ではない。
むしろ、色々な事があったにも関わらず、尚その素直さを持ち続ける彼には好感が持てる。

　だが、それは「他人との付き合い」には邪魔になるであろう。

　人との付き合いの中で、嘘を付いた方が円滑になる事は多々ある。
相手を思い遣って、つかなければならない嘘もある。

　しかし、他人を気遣っての嘘なら尚更、相手に気づかれてはならない。
どんなに優しい嘘でも、
「嘘」となった瞬間、その想いとは裏腹に、関係を壊す凶器に変わるのだから。

　嘘だとばれるくらいなら、例え相手を傷つけるであろうと思っても、最初から本音を語ってしまったほうがいい。

　嘘をつくなら、相手に確実に気づかれないように、嘘を墓場まで持って行く覚悟が必要である。
嘘も貫き通せば真実である。
自分の心の真偽を確かめる術など、他人にはないのだから。